書きかけが積もりに積もりまくってるんで、突然ですがSS載せました。
漫画ならまだしも文章は同人で出せるほどしっかり書けねーんだよ(半ギレ)
OldMooNの、ネタバレにならない・本編にもなんら影響が出ない小話です。「ねぐら」が絡んでるので分かりにくいですが、興味あったらどうぞ。
なおざっくりあらすじを書くと、おサルがプラトンの町に行く話です。
↓以下畳み記事
漫画ならまだしも文章は同人で出せるほどしっかり書けねーんだよ(半ギレ)
OldMooNの、ネタバレにならない・本編にもなんら影響が出ない小話です。「ねぐら」が絡んでるので分かりにくいですが、興味あったらどうぞ。
なおざっくりあらすじを書くと、おサルがプラトンの町に行く話です。
↓以下畳み記事
灰雪の故郷
こんもりと家々の屋根に積もった雪を見て、来る時期を間違えたと後悔した。
どんよりと厚い雪雲、霞む町並み、ちらつく白い雪、まばらな人通り。目の前を通り過ぎる人影はみんな背中を丸め、ひたすら下を向いたまま雪を踏みしめながら歩いていく。
吸い込む空気が、肺を縮こませるほど冷たい。襟巻き越しに息をしないと、多分口の中が凍る。
ああ畜生、これなら内海に留まって、久しぶりの温泉巡りでもしてりゃあ良かった。自分の好奇心が憎たらしい。
そう、恨むなら自分の浅はかさだ。“あいつ”はこの時期のあの海はしっかり着込まなきゃ駄目だ、身体を温める保存食は特に持たないと危ない、と口を酸っぱくして言ってたんだった。この町を離れたのはまだちんちくりんだった時だとか聞いたけれど、なるほど、そんな頃からプラトンの……氷の海の冬がどれ程のものか叩き込まれてたっていう事か。
「君」
やっとこさ着いたってのに、プラトンの町の入口で今更引き返すかどうかまごついていると、横から声が掛かった。
「あ……あい?」
寒さで強張った唇を息で温めながら、辛うじて返事をする。視界を遮るほど白い息がこぼれる。
「なんだ、こんな時期に旅人か?」
声の主は耳に引っ掛けた眼鏡をクイと持ち上げた。老けているか若いのかよく分からないが、掛けているのは老眼鏡のようだった。毛糸の帽子と赤い襟巻きを巻いたごく軽装の、ずんぐりとした体躯。ふわふわとして分厚い毛皮に覆われた姿は南の短毛種には見られない。
パムト族の長毛種、と俗に呼ばれている寒さに馬鹿のように強い連中だ。
「いやー、来る時期間違えました。さーせん」
「……その目は蒸気の海の人か。なんでまたあんな温暖なところから」
パムトのオッサン――いやみんな同じ顔に見えて正直見分けなんか付かないが、声からしてオッサンのようだ――は、外套の頭巾と襟巻きの隙間から覗く、色素の薄い俺の目を覗き込んで首を傾げた。
「えー……と」
別に、大層な理由があって来たわけじゃない。
単に蒸気の海に帰ったついでに、ちょっと……ほんのちょっと気になって行ってみようって思いついただけだ。
それが静かの海に戻るより遠出になるとしても、一度思いついた事だから、成し遂げなきゃ気が済まなくなっていた。
“今”だから、行ってみたいと思った。
そう……強いていうなら。
「あー、アーコシュさん」
「は?」
「アーコシュさんっ……て人が、この町に住んでた……って知りませんかね、かれこれ二十年近く前になるんだけど」
オッサンは不審そうな目で俺を見る。小さくつぶらな目が、眼鏡ごしにぎゅっとすぼまった。
「はて」
「あ、知らない……? ですよね」
「まだ何も言っとらんだろうが」
オッサンは卵形の黒い鼻を鳴らした。それから踵を返し、元来た道を引き返しはじめた。
「あ、ちょっと」
「付いてきなさい」
素っ気ない声でそう言い、俺を一瞥すると雪を踏み固めながら歩いていく。
曇天で辺りはうすら暗く、家によってはランプを灯している所もあった。灰青色に沈んだ寂しい街路に、点々と橙色に滲む火の灯りは良い慰みだった。オッサンは慣れた様子でスイスイと雪の中を進んでいき、俺はオッサンが踏み固めてくれた後を付いていく。
一年半くらい前だろうか、俺が静かの海へ向かう前にも一度、この町を訪れたことがある。あの頃は夏祭りで、質素だけど手の込んだ飾りがあちこちを彩ってそれなりに賑わいを見せていたはずが、今はまるで様変わりしてしまっている。覚えた町の地理も、酒場の場所も、雪に埋もれて印象が変わってしまい何も分からない。
「アーコシュか」
ふいに、オッサンが歩きながら口を開いた。
「また懐かしい名前だな」
「……なんだ、知ってるんじゃ」
オッサンは首を振る。
「直接会ったことはない。昔世話をしていた子らが彼と同じ仕事をしていた。良い魔法使いで、良い職人だったと聞いているよ」
「へぇ……」
「さ、ここだ」
そう歩みを止めたここは、町の広場に近い場所だろうか。もう少し先に進むと急に建物がなくなり開けているようだった。オッサンは二階の窓に掛けられたカーテンからちらちらと灯りが漏れ出している目の前の家を見上げて、帽子に積もった雪を払い落とした。
「十何年か前、奥さんを亡くしてからしばらくして、ここを引き払ったそうだ。今は他人の家だ」
まあ、予想はしていた。
あいつが言っていたとおり。他人の手に渡っているか、そうでなければ更地になっているか。話に聞いていた屋根の色も黄土色から緑に、切り出した石灰岩を積んだ凸凹の垣根ってのも、今は整然と並べられた煉瓦の垣根が、積もった雪の隙間から覗いている。
あいつの家族が生活していたその痕跡はもう、ここには無い。
俺は、これを確かめに来たのだろうか。
いや、そんな悪趣味な事をしに来たわけじゃない。けれど……他人事のはずなのに、急に喉元を掴まれたように息が詰まった。
「何故、彼の事を?」
と、オッサンが問う。
「あ、まあ……ちょっと縁があって」
「そうか。彼は小さい子供を連れてプラトンを出て行ったきり、一度も戻ってきていない。他に身寄りもない家族だったはずだからな。戻る理由がないか、それとも……」
潮境より、遠いところに行ってしまったのかね。
そうオッサンは結んだ。
ここまでずっと淡々とした語り口で話しながら、オッサンは初めて大きいため息をついた。
「息子は」
気付いたら、俺の口からそう漏れていた。
「生きてるよ。ちょっと捻くれて育ったけどさ、あいつ」
自分でも何故そんな事を口走ったのか、よく分からなかった。オッサンに反論したかったのかもしれない。
あるいはそうすることで、ほんの僅かでもこの海とあいつのつながりを残してやれると思ったのかもしれない。余計なお節介だけど。
オッサンは不思議そうに俺の顔を見ていた。それから、何事か悟ったように小さく頷いた。
「……そうか。それは、良かった」
それからオッサンは、それ以上何を訊くでもなく、話すわけでもなく、ただ灰雪が降りてくる暗い空を眺めていた。
しばらくしてさっきの家から通りの先、つまり広場に出た。
そろそろテルルが沈む時間だろう。辺りはだいぶ暗くなってきた。もう他の人影は全く見えない。円形に広場を囲む多くの店のうち一軒だけ、開いていることを示す緑色の角灯が軒から吊るされていた。
「今日はあすこに泊まるといい。明日には雲が切れて少し雪が弱まる、今日より動きやすいだろう。親父に言って温かい酒でも出してもらえ」
「ああ、あんがとなオッサン」
俺がオッサンと呼ぶとあからさまに嫌な顔をしたが、自分の頬を毛繕いするように擦ると、気を取り直したのか広場を引き返していった。明るい光が漏れる店の扉を開けると、暖炉で暖められた空気が外套から剥き出した頬や鼻の頭をくすぐる。
冷気が入らないようにそそくさと扉を閉めようとした時、広場の方から若い娘の声がした。
「あれ、イグナーツ? 先に家帰ったんじゃなかったの?」
「ちょっと寄り道だ、ユーリ先生との話は終わったのかい」
「うん、大変だったけど……とにかく早く帰ろう、明日は……」
娘とオッサンの会話が聞き取れたのはそこまでだった。あとはしんしんと降る雪に掻き消されて、広場の町並みごと深い群青色に呑まれた。
「おおい兄さん、熱が逃げちまうから早く閉めてくれ」
「あ、悪ぃ」
店の中から飛んだ声に促されて、扉を閉めた。
宿の親父と宿泊の交渉を済ませると、親父はミルクで割ってバターを浮かべた熱い酒を出してくれた。身体が冷えきってたから、雪で湿った外套だけ脱ぎ、荷物を傍らに置いて、でかい暖炉の前を占領すると椅子に腰掛けて酒を啜る。喉の奥を下っていく甘い酒が、腹の中でかっと燃えた。
はめ殺しの小さい窓から、外の様子が見えた。いよいよ雪の勢いは強くなっている。
本当に、大丈夫なんだろうか。
「なあ親父さん、明日はどうなるかな」
「ああ。こんぐらいなら大した事無いよ。うちの産土さんは冬ごもりが近くない限り、ドカ雪降らせるような事ないから」
親父はこの雪景色が屁でもないように笑った。
なら、明日は早々にプラトンを発とう。
そして静かの海に……アーマルコの窪地へ、真っ先に。
でも今日のこと、ここに来た事は、あいつには話さないでおこうと思う。
たとえ母親と死に別れた町だったとしても、きっと何も残っていないだろうとあいつ自身が理解していたとしても、あいつの記憶の中でここは、両親と平穏に過ごせた唯一の場所だ。
そして、そのままであるほうがいい。
気が付くと、両手で包んでいた酒のジョッキはぬるくなっていた。
残った酒を呷り、腹が温まっているうちに寝ちまおうと、暖炉の火に当てておおよそ乾いた外套と荷物を肩に引っかけ、親父に挨拶して部屋の鍵と小さな燭台を受け取り、階段を昇った。
あっちに戻ったら、温泉巡りばっかりしてたふうをどう面白おかしく言い繕ってやろうか、そう考えながら。(了)
……
二倍ダーシェ……(白目)
昨日思い付いて推敲もろくにやらないで今日UPしました。
一人称視点の文って結構好きなんですが、私の力量だとギリギリSSだな。ネタが続かん。
寒い日の熱いカクテル旨そう、が書いた動機です。最後に出てきたのがそれですがホット・バタード・ラム・カウと大体同じモンだと思っていただければ良いかと。
私はアレだ白湯の梅酒割り(せいかい)かエッグノッグぐらいじゃないと即寝落ちしそうなんでラムガッツリベースは多分無理だ。
うーん、でも今度ライオンスタウトでホットビール作ってみよ。
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